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title: 芸術とデザインとしてのDIY半導体
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抵抗やコンデンサ、コイルのような素子自体をDIYデザインやクラフトの対象にする試みは[[Hannah Perner-Wilson]]らの”[[Kit of No Parts]]”を代表として様々な例があるが、半導体素子に関してはまだまだ例が少ない。ダイオードに関しては、1920~30年代から試されていた点接触式の簡易的なデバイスが作れるため、アーティストの[[Ioana Vreme Moser]]による「Sizzling Semiconductor」ワークショップや、そこで参照されている[[Nyle Steiner]] のようなアマチュアによる先例が多くある。
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一方トランジスタに関しては、同様に点接触式の簡易的なものを[[Ryan Jordan]]が、またSteinerによるCdS(光可変抵抗)を改造して作るものなど、先行例はいくつかあるがかなり限られる。
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半導体製造のオープン化はGoogleなども参加するOpen Source Silicon Initiativeや、や日本におけるMake: LSIの活動のように、複数の個人が1枚のシリコンウェハに相乗りする形で集積回路(ASIC)のデータを入稿する、ソフトウェア側のインフラの整備が進んできた一方で、物理的な製造のDIYは。
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2010年ごろまではYahoo!グループの「[Homemade Transistor](http://groups._yahoo_.com/group/home_transistor/)」というトピックで議論が交わされていたが、現在はこうしたトランジスタを物理的に制作することを目指したコミュニティは見当たらない。
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今日工業的に一般的な方法に習って、シリコンウェハ上にトランジスタを形成する取り組みを行っているアマチュアとしては、[[Jeri Ellsworth]]や[[Sam Zeloof]]、最近では”Project in Flight”などのYoutubeチャンネルで試みが見られる。
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しかし、シリコンウェハを使ったトランジスタは、簡易的な方法を用いたとしても次の3点が大きなハードルとなる。
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1. 超高温。シリコン上に絶縁層(SiO2)を作ったり、不純物を添加する(ドーピング)ためには1000°C近い温度で加熱可能な炉が必要になる。層の厚さを均一にコントロールするためバーナーなどでは置き換えられない。
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2. 真空。電極を蒸着やスパッタリングで形成するために必要になる。
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3. 特殊な薬品。絶縁層を任意のパターンで削り出すため、フッ化水素酸のような通常購入の難しい危険な薬品が必要になってくる。
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Zeloofのような先行例では炉や真空装置をebayで手に入れたり、炉自体をDIYで作るようなアプローチを取ることになるが、依然根本的なハードルの高さは否めない。
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もちろん、工業的にもこれらの3要素なしに製造できるメリットは大きいため、様々な研究が行われている。例えば比較的低温(~250°C)で製造ができるのなら、基板をガラスやシリコンでなくプラスチック上に形成できる。
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特に、Printed Electronicsと呼ばれる分野ではトランジスタを含めた素子を、薬品の塗布や加熱の繰り返しのような簡易的なプロセスで作ることを目指している。
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中でも酸化亜鉛(ZnO)をベースにした薄膜トランジスタ(Thin-Film-Transistor:TFT)は材料の入手性や人体、環境への安全性の面でDIYでの製造に適している。工業的にはZnOが透明であるため、液晶ディスプレイなどに応用されている(真空プロセスが主流だが)。
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アマチュアで酸化亜鉛ベースのトランジスタを製造している例は、ユーザー名madscifiによるブログ"And a Quarter gets You Coffee"での[[Homemade Thin-Film Transistor Experiments]]が唯一である。
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https://web.archive.org/web/20210504200229/https://www.andaquartergetsyoucoffee.com/wp/?page_id=130
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madscifiによる実験では、前駆体溶液(加熱するとZnOの薄膜が得られる溶液)として、硝酸亜鉛とイソプロピルアルコール(2-プロパノール)を用いている。この溶液は熱分解時にZnOとNO2ガスを出すため危険であると同時に、入手の難易度も高い(直接手に入らないにしても、製造には硝酸が必要なため依然危険)。
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研究では前駆体溶液に酢酸亜鉛(Zinc Acetate)を用いているものが多く、こちらは加熱時のガスも比較的安全な上、氷酢酸、酸化亜鉛、塩酸、炭酸ナトリウム、純水という、比較的入手性の高い材料で作ることができ、副産物はCO2と塩化ナトリウム(=塩水)だけと扱いやすい。
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実際の研究では酢酸亜鉛を純水、あるいはエタノールやイソプロピルアルコールなどの有機溶媒に加えた上で、モノエタノールアミンなどのアミン系添加物を加えることで安定した結晶を得ているものが多い。これら添加物を一般的に入手するハードルは高いが、酢酸や乳酸などの酸を用いていたり、ポリビニルアルコール(≒洗濯のり)のみで実現している研究もあるため、市販で手に入る材料のみで酸化亜鉛ベースのトランジスタを作ることは不可能ではないと考えられる。
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その焦点はどちらかというと不可視のテクノロジーを材料レベルでクラフトするという、マテリアルの問題であるように見える。
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いま注目すべきは複製技術(版画のテクノロジー)が使われていることなのではなかろうか
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### 実験ベースの科学のフラジャイルさ
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例えば[[スピンコーター]]を最初に立ち上げた時、3000rpm/30sが標準の設定になっているが、実際どのくらいのスピードで何秒回すとちょうどいいのか全く検討がつかない。そこで参考にしている論文をいくつか漁ってみると、なぜかみんな大体3000rpm/30sでコートしていたりする。
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スピンコートの回転数or時間が成膜に与える影響が主題になっている論文でもない限り、わざわざ回転数と時間のパラメータを大量に並べてパターンを増やすことはしない。分析時のパラメーターが増えるし。
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じゃあそうした、消極的に設定されたパラメーターが何を基準に決められているかといえば、おそらくは参考にした論文と同じパラメーターを使って、そこから1箇所だけ新しい要素の変化を加えて違いをみる・・・というのがいわゆるサイエンスの営みだと思っていたんだけど、実際のところはその辺は省略されて「今回はこの値を使った」という結果だけが論文には残されていて、全てのパラメーター設定に根拠が示されるわけではない。少なくともそれが査読に通っている。
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大体、全てのパラメーターについて記述することは確かに現実的ではない。例えばゾルゲル法ZnOベースのトランジスタならとりあえずは次のパラメーターが考えられる・
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- 使う基板
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- 前駆体溶液の主材料(酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、etc)
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- モル濃度は?
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- 溶媒(エタノール、メタノール、プロパノールetc)
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- 添加剤(モノエタノールアミン、ジエタノールアミンetc)
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- 粘性(viscosity)
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- 主材料に対する濃度は?
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- 塗布方法
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- スピンコート
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- 回転数
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- 時間
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- ディップ&ソーク
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- 引き抜き速度
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- 塗布回数
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- 乾燥温度と時間
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- アニーリング温度と時間
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これだけでも結構な数だが、増やそうと思えばまだまだ増やせる。
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- 使う基板
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- 前駆体溶液の主材料(酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、etc)
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- モル濃度は?
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- 溶媒(エタノール、メタノール、プロパノールetc)
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- 添加剤(モノエタノールアミン、ジエタノールアミンetc)
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- 粘性(viscosity)
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- 主材料に対する濃度は?
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- **混合は?**
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- **どのくらいの時間攪拌する?**
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- **攪拌後どの程度時間をおく?**
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- 塗布方法
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- スピンコート
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- 回転数
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- **回転加速度の分は?**
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- 時間
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- ディップ&ソーク
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- 引き抜き速度
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- 塗布回数
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- 乾燥温度と時間
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- アニーリング温度と時間
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- **温度上昇/下降の加速度は?**
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- **雰囲気ガスは?**
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これだけいろんなパラメーターがある中で、レビュー論文とかが、「どの要素がどう影響を与えたか」についてを、XRDやSEMなど出来上がったものの観察から、時に反応のモデルのinductionを交えて議論している。
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しかし、「この特性が欲しいならこのパラメーターをこう変えれば良いと思われる」みたいな指針をレビュー論文は決して出してくれない。
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そうなると、とりあえずなんでもいっからZnOトランジスタ一番簡単に作りたいな!とかなったとしても、一番スタンダードなやり方みたいなのが想像以上に定まってなくてビビる。
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