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#writings
メディア研究、インフラ研究、フォーマット研究の裏(あるいは表)面としての障害学
## アウトライン
- 本稿は、2020年に出版された未邦訳のジョナサン・スターンによる[[Diminished Faculties - Jonathan Sterne | Diminished Faculties - A political phenomenology of impairments]]の書評である。
- ジョナサン・スターンは「[[聞こえくる過去─音響再生産の文化的起源]]」(2003、邦訳2015)で録音メディアの系譜を丹念に掘り下げ、今日に至るまでの録音技術が人間の聴覚の仕組みの模倣とその機械化、規格化によって成立してきたことを描き出した。
- つづく「MP3 - the meaning of format」(2012)では、MP3という人間の聴覚の特性を利用した非可逆(lossyな)データ圧縮フォーマットを題材に、コンピューター登場以後の音楽や音環境の形成に、レコードやカセットテープのような物質的な基盤を持たない規格そのもの:フォーマットやプロトコルといった約束事が大きく影響を及ぼすことを指摘した。
- そこから少し時間をおいて2020年に出版された「Diminished Faculties」は、障害をメインのテーマにした本だ。
- 取り上げられる障害の主なものとして、発話障害、難聴、そして疲労fatigueといった並びになっている。
- これまで音に関わるメディアやフォーマットを論じてきた者としてスターンを知る人にとっては、なぜ障害というテーマを書くようになったのか疑問に思うものもいるかもしれない。
- 大きな理由としては、のちに説明するが「MP3」執筆のさなか、スターン自身が発声に困難を伴う障害を負ったことがある。
- 本書の中では自身が使うことになったスピーチ増幅器や、また聴力低下の保護を目的とした耳栓やイヤーマフといった、音にまつわる、かつこれまでの音響メディア史の中では掘り下げられてこなかった道具にスポットライトが当てられる。
- こうした箇所はこれまでの著書からの一貫したスタイルと言える。
- しかし、本書の学術書としての論じ方はこれまでとは大きく違う。
- それは、歴史的な資料の精査だけでなく、当事者としての一人称的経験に基づく記述をベースにした、現象学やオートエスノグラフィーといった手法を---
- また、学術的な系譜としては障害学、クリップ・セオリーそのものが共に歩んできたフェミニズムや、
- "political phenomenology of impairment"について
- 1章
- スターンは、2009年に甲状腺がんの摘出手術に伴って声帯の左半分が麻痺し、発声に困難を抱えるようになったことが
-
- 3章:本の中に現れるミュージアムについて
- スターンと障害学
- 「[[聞こえくる過去─音響再生産の文化的起源|聞こえくる過去]]」、「[[MP3 - the meaning of a format|MP3]]」からの違い
- [[アレクサンダー・グラハム・ベル]]とろう教育、口話主義
- [[電話の考古学 ―話す機械,音響合成器,フォノトグラフ―]]
- 誰かをはじき出すこととしての規格化
- MP3マスキングのような、平均的聴覚の特性を規格化すること
- 誰にとっての「無音」か?(ジョン・ケージ)