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quartz-research-note/content/クリスマスツリーとサグラダ・ファミリア.md
松浦 知也 Matsuura Tomoya 00c8f2e2a9
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2025-12-25 15:43

#writings

2017年ぐらいにやった緑青 #1 “復習(Relisten)”という音楽イベントに向けて書いた文章。

つゆという曲についての文章だった気がする。


どうして音楽を作るのか、というだだっ広い話題から始めてみたい。

ある人は自分の思うことやメッセージを伝えるためにつくる。ある人は新しい技法を取り入れた物を作りたくて、自分で一番聞きたいものを作りたくて。

それが自分の場合にはずっとわからなかったもので音楽が作れなかった、というか出来上がったにしても全然納得がいったものではなかった。

だんだんと分かってきたことは、自分は日常聞いている音楽は基本的にポップミュージックと言われる範囲のもので、実験音楽だとか、あるいは電子音楽(という雑なくくりも微妙だが)にはリスナーとして全然興味が持てなくて、一方音楽の実践者、演奏などをするときにはポップとかどうとかでは全然なく、実験的なものや、あるいは楽器そのものを作ってしまうようなアプローチにしか興味が持てない、ということだった。そして周りを見渡すと意外と(特に実験的なところにいる人達には)そういうタイプの人はいて、演奏はするけど音楽はそもそも全然聞かない、みたいな人もいる事に気がついた。

それがわかってからは自分の中での「リスナーモード」と「プレイヤーモード」というものがスイッチできるようになってきた。そして「プレイヤーモード」のまま聴くということも可能で、そうすれば実験的なものとかも結構楽しめるのだとわかってきた。

ーーー

自分が楽器(ソフト込み)を作ったり、演奏するときに使う楽器で好きなものは、中身の構造がわかっているのにそのコントロールができない、先の挙動の完全な予測ができない、というタイプのものだ。これは特にフィードバック構造を持つものに顕著に現れるのでよくオーディオフィードバック=ハウリングをよく使う理由でもある。

楽器は一種の道具だ。道具はよく身体を延長、拡張するものだと言われるが、これがある程度自律的に動く、またコントロール不可能になるにつれて自分の身体の延長から新たな身体とのコミュニケーションに近いようなところが出てくる。わかりやすいところでいえば、Siriのような音声コントロールがそうだし、コントロール不可能性というところを含めるとキャラクターがインターフェースのメールソフトPostpetはメールを時々誤配する。

要するに自分の場合のプレイヤーモードというのはこの(ディス)コミュニケーションみたいなものに向き合うことだと思っている。


ところで「プレイヤーモード」のまま聴くこともできるなら改めて「リスナーモード」を音楽制作や演奏にもきちんと取り入れられるのではないだろうか、と思って1年前ぐらいから時々音楽のようなものを作るようになった。自分の「リスナーモード」の方を噛み砕くと、「製作者にまつわるパーソナルななにか」と「音楽における構造的ななにか」という2つの要素がポップミュージックを形作っていると考えている。

とりあえず前者については一旦置いておくにして、後者はつまり、時々言われる気がするけどポップミュージックとは建築的なものだと思う。全体の骨組みがあって、それを更に細かな構造が覆っていくようなもの。というかこの考えは自分のものでもなくてブライアン・イーノが生成的音楽に対して建築からガーデニング的なものへ変わっていくという例えそのまんまである。 https://wired.jp/2018/03/01/brian-eno-ar-installation/

しかしこれを自分のプレイヤーモードに納めようと思うとうまくいかない。全体の骨組みを作るにも大きな木を削って大黒柱を作るようなやり方ではなく勝手にわさわさ成長していく木を剪定して頑張って形を整える。まさにガーデニングの例えというか、盆栽とかそういう感じに近いのだろうか。

というわけでとりあえず自分なりにポップミュージックに近づく一歩として、勝手に鳴り続けるシステムで作った音を一つなが~く録音してみて、固定した、動かないものにする。そこから上に付け足すものを考えてみる。言うなればもみの木を伐採してきれいに飾り付けをするクリスマスツリーか。

あるいは建築は建築でも、ガウディのそれとかは近いかもしれない。ガウディの建築は直線が建物の中に全く無かったり、自然から得られる構造をもとにして形を作ることを重んじていたり。全体の大きな設計図が残っていないものが多く模型を中心に作っていたりとか、大きな骨組みを使って精密に組み上げていく建築とはかなり趣が違う。そう思うといつまでも完成しないサグラダ・ファミリアは音楽に置き換えてみるとポップ・ミュージックと実験的な音楽の間の魅力的なものになっているかもしれない。


もうちょっと具体的なことを書くと、クリスマスツリーのもみの木にあたる部分はディレイ音を遅らせるエフェクトをちょっと複雑にしたもので、音を5個ぐらいに分岐させて、それぞれ基準を1秒だとして1/2,2,3,5(正確な数字は忘れたが)など整数倍に遅れ時間を設定している。遅れた音はそれぞれいい感じにミックスされてまた5個に分配される。のでただのループともちょっと違うリズムのようなものが生まれる。

ここに入力したのは物理モデリングのギターシンセAAS String Studioを一音だけ弾いたもので、妙にアタックが強調された音が作れるのでよく使う。途中からそれぞれ遅れ時間を0.01%とかだけランダムにずらしていて、遅れ方がそれぞれちょっとだけずれて重なっていき、だんだんアタックがぼやけてくる。このぼやけた状態の音がギターを弾いてる音からバイオリンを弓で擦ってるような音に、最後にはドローンのようなボワーっとした音にときれいにモーフィングするのを偶然発見したのでこの音を使うことにした。後半では遅れ時間を少しずつ短くすることでドローンのピッチを上げていっている。これは録音を回しておいてMaxをリアルタイムで操作して録音したので実質再現不可能。

このモーフィングから始めたので、他のところもモーフィングとか、硬派なタイプのミニマル的なじわっと変化するやり方をたくさん使うことにした。のでDAW上でオートメーションをひたすら書く作業が曲作りという感じになっている。

他に入れた音エレキギターをアナログディレイで発振させたときのサンプルのループ、物理モデリングシンセで木琴→鉄琴にモーフィングする音Chromaphone2、Maxでの自作コツコツ叩いたような音や金属を引っ掻いたような音がするシンセ説明がしづらい、自宅で録音した雨の環境音

つゆというタイトルになっているが雨の音を録ったのはたしか4月で、作っていたのは5月のGWの間。完成してからしばらく放置して6月ぐらいに公開した。