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#writings

この記事はオープンソース半導体 Advent Calendar 202516日目の記事です。

物理的に半導体を作りたい

さて、オープンソース半導体コミュニティの活動の多くは、TinyTapeOutのようなシャトルに向けてデータを入稿するためのソフトウェアエンジニアリングです。

一方で近年、Sam Zeloofのようなエクストリームメイカーの活動などに触発されて、物理的に半導体を製造するプロセスのオープン化もやれたらいいよねという流れがあります。

代表的なのはアメリカ中心のHackerFabで、カーネギーメロンやウォータールー大学、オハイオ州立大学などで、多くはまずシリコンを正確に削るためのエッチングのための装置や、酸化被膜形成やドーピングのための高温対応電気炉のような、作るための装置の自作に取り組んでいます。

私も最初はトランジスタを自作したいという気持ちで色々ISHI会の中で話をしながら、大規模な製造装置があまり必要にならない溶液ベースのプロセスディスプレイとかで使われるようなTFT、薄膜トランジスタというタイプのものが作れないかとあれこれ試行錯誤しています。

というか、ずっとしてるんですが未だに作れていません。作れない理由のいくつかに、作ったものを観察する装置(電子顕微鏡とか分光装置とか)がなく、特性を測ってダメだった時に具体的に何がダメだったか確認する術がないという問題があります。まあただ、それはそれです。

太陽電池も作ってみる

トランジスタは以上のような流れでかなり難しいのですが、ここで製造を頑張る方向に一人で動くよりも、まず物理的に半導体を作るのに興味がありそうな人を集めたり、そういうムーブメントがあることを地道に周知するのが良いのではないかと思い始めました。

そこで注目したのが、色素増感太陽電池です。これを半導体と呼んで良いのかは実は微妙なのですが、製造プロセスには溶液ベースのトランジスタ作成とかなり共通した部分があるので、広義の半導体ということにしました。

色素増感太陽電池は、最近話題のペロブスカイトのような新しいタイプの太陽電池の動作原理であり、酸化チタンを用いる単純なものであれば比較的自作が容易です。

例えば(私がこれを作り始めた直後に知ったプロジェクトですが)台湾のアーティスト/デザイナーのShih Wei-Chiehがさまざまなプロジェクトの記録を上げてくれています。

Manufacturing of large dye sensitized solar cell (DSSC) at home - YouTube

また若狭 信次による高校生向けの授業での作り方をまとめた本が2010年に出版されていて、これも随分と参考になりました。

手作り太陽電池のすべて色素増感太陽電池を作ろう | 若狭 信次 |本 | 通販 | Amazon

色素増感太陽電池は、簡単に言えば透明導電ガラスで酸化チタンペーストを焼結、染色したものを挟み込み、間に電解液を流し込む形で作られています。

ISHI会でのWSでの具体的な作り型としてはいくつか独自の工夫もあったりするのですが、その辺りはまたいつか別途まとめようと思います。

ワークショップの実施

2025年度は、いろんなものづくり系イベントというか全国各地のNTでこの太陽電池制作WSを実施しました。材料や道具は大体ISHI会の今村さんが持ち出してくれました、ありがとうございます・・・。

NT金沢6月

(松浦は予定により不参加、写真提供埋田さん) !img/PXL_20250621_111006546.jpg

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NT東京9月

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NT福井10月

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ソーラーパネル・カフェ(12月)

3回もやると、ワークショップとしての難しさが色々と見えてきました。

まずは、体験時間が長いことです。フルサイズでやると、めちゃくちゃスムーズにやって90分、大体2時間くらいかかります。とくに子供を対象にすることを考えるとこれは長すぎます。かといって、酸化チタンを塗るちょっと難しい、焼く、冷ます、染めるなどにかかる時間はあまり短縮できません。

子供向けには、酸化チタンの焼成までの大変なプロセスを済ませておいて、挟み込んで組み立て部分だけでも良いのでは?という相談をしました。

そこから、そもそも子供向けでなくても、全員が全工程を必ずしも体験しなくてもよいのではないか、という発想が出てきました。

というわけで先日、ちょっと変化球のワークショップとして、「FVS-太陽電池カフェ企画書」というものを企画してみました。

これは、お客さんが太陽電池の制作の一部を手伝う(=労働を提供する)と代価としてお茶かコーヒーがもらえるというものです。

なぜカフェか?というと、色素増感太陽電池には酸化チタンパネルの染色という工程があり、そこではハイビスカスティーの使って染めるのが定石になっているのです。紅茶やコーヒーでも(だいぶ発電効率は落ちるのですが)一応機能するので、実際に染色に使っているものを飲めたら楽しいのではないかという目論見です。

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この方式は、お客さん目線的にはうまくいったような気がします。ただ講師側の目線ではカフェ業務が加わる上に教える順番や工程がランダムになるので教える人が3人以上になった瞬間、こちらも同じだけの人数がいないと破綻するなと思いましたあたりまえ。そもそもあまり大人数が参加しない想定であればこれはこれでありかも。

また、前回までのワークショップの反省の一つに作った太陽電池で何ができるかというところでテスターで電圧を測る以外のことができてない問題がありました。そこで、今回はミュージシャンの知り合いがやってて面白かった「太陽電池をマイク端子のhotとgndに直繋ぎして電圧を聴く」という体験方法も追加しました。太陽電池というよりは光センサーとしての使い方に近いですが、スマホのストロボアプリを利用して点滅した光を当てるとわかりやすくイズがオンオフされます。

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これは比較的ウケが良い割にセッティングも簡単マイク端子のついたレコーダーかオーディオインターフェースがあればOKなので今後も使えそうだなと思いました。

全体的な感想

手作り太陽電池でできることはそう多くありません一つで0.3V出れば良い方。WSをたくさんやった割には、「結局これで何ができるのか」という部分に対してアプローチできてないので今後はその辺に積極的に取り組んでいきたいところです。

今後個人的にやりたいこととしては、レーザーカッターのようなデジファブ機器とのうまい組み合わせかたです。導電ガラスは実はレーザーカッターで任意の図形で電極パターンを作ることができますし、印刷した酸化チタンを部分的にレーザーで彫刻することで写真のような太陽電池を作ることも(たぶん)できます。

芸術方面での期待としては、Kit of No Partsのように電子部品そのものを材料レベルから自作することで新たな造形が可能になるのも面白いところで、これを使って音の出る電子回路彫刻作品みたいなものも作ってみたいなあと思っています。

そして、メルカリで2万円の電気炉を買ったりしたので、来年こそは自作トランジスタにも何かしらの進展があることを期待したいです・・・。